サッカー選手の「恥骨炎」が相次いで起きています。11月26日、フランクフルトに所属する日本代表MF長谷部誠選手に恥骨炎の可能性があることが報道されました。ドイツの専門誌キッカーによれば、長谷部選手は8日のマインツ戦を欠場するだけでなく、長期離脱の可能性もあるとのこと。
また、別の例では、ミランに所属するFWマリオ・バロテッリ選手も9月27日のジェノア戦以来、恥骨炎のため戦列を離れています。当初は長期離脱が予想されていましたが、手術後の経過に問題はなく、年内復帰の可能性も出てきたそうです。
こうして見ると、サッカー選手は頻繁に恥骨炎に罹っているようです。しかも、回復が早いといわれるケースでさえ2か月はプレーができません。スポーツ選手にとっては深刻な状況ですよね。ここでは、なぜサッカー選手に恥骨炎が多いのかについて考えてみましょう。
恥骨炎の原因は?
恥骨はちょうど膀胱の下のあたりに位置し、左右に分かれています。2つの恥骨が連結する場所を「恥骨結合」といいます。スポーツでは下肢の筋肉が大きな力を発揮し、また、地面からの衝撃を吸収しています。これにともない骨盤にも大きな力が加わります。骨盤の中でも恥骨結合は痛みが生じやすい場所です。
恥骨には内転筋といって、開いた股関節を閉じるときや、軸足がぶれないように安定させるときに使われる筋肉が付着しています。この内転筋の柔軟性が損なわれたり、内転筋の拮抗筋である外転筋の筋力が低下したときに、恥骨結合に炎症が生じやすいとされています。とくに、比較的小さな力が継続的に加わるマラソンのようなスポーツ、または、サッカー、ラグビーなどのように身体的な接触のあるスポーツでは恥骨炎が多く見られます。
恥骨炎とサッカー選手の身体的特徴
「サッカー選手における鼠径部痛症候群に関する研究」(茨城大学)では、サッカー選手に多く見られる恥骨結合炎やスポーツヘルニアなどの鼠径部の痛みについて分析しています。
それによると、サッカー選手の股関節の可動域は狭く、また、左右の脚の筋力バランスが偏っているとのことです。
サッカーは足を使ってボールを力強く、そして器用に扱うことが求められるスポーツです。右利きの選手の場合、左足を軸足にして右足でボールを蹴るのが一般的です。股関節を外側に開いて、足を真横に挙げていくことを股関節の「外転」といいますが、サッカー選手では一方の脚の外転筋力が低下する傾向が認められました。
外転筋力が低下した方の足は蹴り足側(右利きの人の場合の右足)でした。歩行時に片足立ちになっても姿勢を安定させることができるのは、股関節の内転・外転に関与する筋肉の働きによるものです。サッカーの動作においても、ボールを蹴る際の軸足側では内転・外転に関与する筋肉が酷使されます。一方、ボールを蹴る方の足ではそうした筋肉はあまり使われません。長年にわたってサッカーをプレーした結果、競技特性に合った身体のバランスに変化したものと考えられます。
軸足側の外転筋力の方が強く、それに比べ蹴り足側が弱いというのは、ボールを蹴るという動作にとっては悪いことではありません。しかし、サッカーのゲーム中はボールを蹴るだけでなく、実に複雑な動きを要求されます。フェイントをかけ、素早く左右に切り返す動作をしたり、ジャンプしたり、無理な体勢でターンしたり……、それだけ体を酷使しているわけですが、ケガはとかく弱いところに発生します。とりわけ外転筋が弱いと恥骨結合炎など鼠径部に痛みが生じやすくなります。
サッカー選手に恥骨炎が多いのは、彼らがサッカーの競技特性に適応した結果、股関節の柔軟性が低く、外転筋力の左右差が大きいという身体的特徴を備えるに至り、なおかつ、競技中に求められる多彩で過酷な動作の中で、蹴り足側の外転筋力低下がウィークポイントになっているためではないかと考えられます。