水木しげるさんが亡くなられました。報道によれば転倒をきっかけとする多臓器不全とのことです。水木さんは昨年、心筋梗塞の手術をされたそうですが、亡くなる直前までは元気だったとも言われており、転倒するまで心臓の方は問題なかったようです。
心筋梗塞は、動脈硬化の影響で心臓の筋肉に血液を送る冠動脈がつまってしまう病気です。冠動脈が狭くなって詰まりやすい状態を冠動脈狭窄といいます。水木さんのケースは急性心筋梗塞で、すでに症状が出てからの手術でしたが、重い症状が出る前に冠動脈狭窄が見つかった場合にもあらかじめ危険を回避するための治療を選択することができます。
予防のための治療の手段は薬物療法、カテーテル治療、外科手術があり、治療自体による体への負担もこの順に高くなります。90歳を過ぎた水木さんの場合、仮に症状が出る前に冠動脈狭窄が見つかったとしても手術を行うかどうかは難しい判断だったのではないでしょうか。ただ、近年の傾向として、90歳以上の高齢者であっても心臓手術を行うケースが増えているといいます。
高齢者こそカテーテル治療を行う価値がある!?
日本老年医学会の「後期高齢者の心臓外科手術」という報告を参考に、いくつかのポイントを見てみましょう。カテーテル治療は、カテーテルという管を血管に入れて、狭くなった血管を広げたり、そこにステントという金属の筒を設置して再び狭くなるのを防ぐ治療です。若い人がこの治療を行った場合、それによって生命予後が良くなるという確かな報告はないそうです。一方、高齢者にたいしては、はっきりと生命予後の向上が確認されています。
カテーテル治療か外科手術か
80歳以上の高齢者(1693例)に対し、治療法別に生存率を比較した研究があります(NNECDSG)。この研究ではカテーテル治療と外科手術の成績を比較した結果、生存率では外科手術の方が上回りましたが、入院中の死亡率については外科手術5.9%、カテーテル治療3.0%となっていました。つまり、外科手術は治療それ自体に伴うリスクが高くなる一方、利益も大きいということができます。
カテーテル治療や外科手術といった体に負担をかける治療と、薬物療法を比較した場合、後者の方がその後、手術が必要になる事態が発生するケースが多かったといいます。治療に伴うリスクは薬物療法、カテーテル治療、外科手術の順ですが、治療が上手くいった場合の利益の大きさはこの反対になります。高齢者の手術が増えているのは、利益を優先する選択をする人が増えている、ということなのでしょう。
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