歌舞伎俳優の尾上菊五郎さんが今年3月に休演したのは「胃潰瘍」が原因。よく耳にする病名ではありますが、「潰瘍」(かいよう)の意味は少し難しいですよね。潰瘍とはどのような状態なのでしょうか。
「潰瘍」と「びらん」の違い
胃や腸の粘膜に異常が生じたとき、「潰瘍」とか「びらん」といった言葉が使われます。これらはいずれも粘膜が傷ついていることを表しています(皮膚が傷ついた場合にも用いられます)。「潰瘍」と「びらん」を比べると、「潰瘍」の方が傷が深くなります。
胃の壁は表面から順に、粘膜、膜筋板、粘膜下層、筋層、漿膜(しょうまく)の順に深くなっていきます。胃が傷つけられたときに、傷の深さが粘膜下層よりも浅ければ「びらん」といわれます。
「潰瘍」とは、胃にできた傷が粘膜下層よりも深い状態を指し、粘膜下層よりもさらに奥の筋層や漿膜にまで達していることもあります。
胃以外にできる潰瘍
潰瘍は、本来あるはずの組織が傷つき欠損している状態のことです。胃潰瘍は特によく知られていますが、胃以外にも潰瘍はできます。
<潰瘍性大腸炎>
大腸の粘膜が炎症を起こし、びらんや潰瘍が生じる病気。原因はわかっていません。下痢、便に血が混じる、腹痛といった症状が見られます。炎症の範囲が広い、炎症の期間が長い、という場合は大腸がんを発症するリスクが高くなります。
<難治性潰瘍>
血流の滞った足の組織が壊死して治らない状態。糖尿病が原因になる「糖尿病性潰瘍」、下肢静脈瘤が原因になる「静脈うっ滞性潰瘍」、閉塞性動脈硬化症やバージャー病が原因になる「動脈性(虚血性)潰瘍」のほか、膠原病治療に用いるステロイドや免疫抑制剤の影響で生じる潰瘍があります。
胃潰瘍はあまりにも身近なので怖い病気というイメージがないかもしれません。しかし、胃潰瘍以外にも、「潰瘍」の病名が付く病気はほかにもあり、潰瘍性大腸炎や難治性潰瘍はかなり深刻な病気です。病名からの推測で「胃潰瘍の仲間」くらいに考えているととんでもないことになります。さらに付け加えるなら、大量吐血した尾上菊五郎さんの例が示すように、胃潰瘍自体も決して軽視してよい病気ではありませんね。「たかが潰瘍」「潰瘍くらい」といった発想は捨てなければならないでしょう。
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