歌舞伎俳優の尾上菊五郎さんは今年3月、胃潰瘍による大量吐血で生死をさまよったといいます。「血を一升瓶以上吐いた」「もう1回吐いてたら分からなかった」とコメントし、身近な疾患として侮りがちな胃潰瘍が、実は非常に危険な病気であること伝えています。
胃潰瘍というと、「胃酸の出過ぎ」とよくいわれますよね。そして、胃酸を中和する薬を飲めばひとまず安心と考えられています。しかし、現在では胃潰瘍のできるメカニズム、そして治療に対する考え方は変化してきているといいます。
「胃酸の出過ぎ」はもう古い?
従来、胃潰瘍の原因は胃酸の出過ぎとの考えに従い、胃酸を減少させる治療、胃酸を中和させる治療が主に行われていました。しかし、現在では、多くの胃潰瘍において胃酸過多は主な原因ではないと考えられるようになり、代わりに注目されているのがピロリ菌の関与です。
胃・十二指腸潰瘍の9割でピロリ菌感染
出血や胃の痛みといった胃潰瘍の症状は、胃がんとの共通点が多いため、診断においては胃潰瘍と胃がんの区別が重要とされています。胃潰瘍と胃がんは症状が類似しているだけでなく、発症のプロセスの一部に共通点を持っています。それが、ピロリ菌感染です。
ピロリ菌は若い世代の感染は少ないものの、50歳以上の感染率が高く、国内の感染者数は6000万人ともいわれています。通常、強い酸性の胃の中で菌は生きることができませんが、ピロリ菌の持つ酵素は胃の中の尿素をアンモニア(アルカリ性)に変えることで胃酸を中和して生き続けることができます。ピロリ菌の作り出すアンモニアは胃の粘膜を変化させ、胃の酸に過敏に反応してしまう性質にしてしまいます。こうして粘膜が傷つきやすくなっているところに、サイトカインという炎症に伴う物質の関与が加わることで潰瘍化が進むとする説があります。
原因療法となるピロリ菌除菌
胃潰瘍は再発が多いのが特徴です。胃潰瘍自体は数カ月で改善しても、時間が経つとまた胃潰瘍になってしまいます。確かにプロトンポンプ阻害薬という胃酸を抑える薬の効果は絶大で、胃・十二指腸潰瘍の9割が8週間以内に治るといわれています。ただし、治癒後に何もしなければ1年後に約7割が再発し、薬を飲んだとしても2割程度に再発が認められます。
これに対して、ピロリ菌を除菌する治療を受けた場合は、薬を飲み続けなくても再発率は胃潰瘍で1割まで低下し、十二指腸潰瘍については5%まで低下します。
胃潰瘍というと「胃酸を抑える」という発想は間違いではありませんが、それだけでは一時しのぎの対症療法にとどまります。胃潰瘍が治癒したら、その状態を維持することが大切。胃潰瘍を繰り返している人は、ピロリ菌の除去について医師に相談してみるとよいかもしれません。
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