悪性グリオーマは脳腫瘍のひとつで、脳の正常組織との境界がはっきりしておらず、手術で適切に取り除くことが困難とされています。また、正常組織に深く浸潤していることもあり、手術を通じて脳細胞が傷つき、神経障害を引き起こす危険も生じます。そのため、抗がん剤や放射線治療を組み合わせて治療を行いますが、従来の放射線治療が効きにくいというやっかいな性質が治療を一層困難にしていました。そこで期待されているのが、中性子捕捉療法(BNCT)です。
放射線治療の課題…がん細胞にダメージを集中させること
いかにして正常細胞を傷つけず、がん細胞だけにダメージを与えるかが放射線治療の課題です。正常組織とがん細胞に同等のダメージが加わる方法では、正常細胞が耐えられる範囲でしか放射線を当てることができず、がん細胞を十分にたたくことができません。
がん細胞だけを攻撃するためにさまざまな方法が開発されています。例えば脳腫瘍の治療に用いられるガンマナイフは、201個の発射源(コバルト線源)を持ち、さまざまな角度から放射線を照射して、ちょうど虫眼鏡で光の焦点を結ぶようにして腫瘍にエネルギーを集中させます。
また、重粒子線や陽子線には「ブラッグピーク」と呼ばれる、エネルギーの分布のムラがあり、この性質を利用して特定の深さでエネルギーが最大化するように調整できます。正常組織のダメージとがん細胞のダメージの強弱をつけることが可能になるのです。
中性子捕捉療法(BNCT)も、こうした目的は共通していますが、その仕組みは従来の放射線治療と大きく異なっています。
中性子捕捉療法(BNCT)の仕組み
中性子捕捉療法(BNCT)では熱中性子線を照射しますが、熱中性子線自体は正常組織にもがん細胞にも大きなダメージを与えるものではありません。ポイントは、照射に先立ち、あらかじめホウ素を投与しておくことです。
ホウ素には次のような性質があります。
・正常細胞はホウ素化合物をほとんど取り込まないので、腫瘍に集まる。
・熱中性子線と反応して強力な粒子線(アルファ線、7Li粒子)を発生させる。
つまり、中性子捕捉療法(BNCT)では、ターゲットとなる腫瘍細胞にホウ素を取り込ませておき、そこに熱中性子線を照射して核反応を起こさせます。外側からの照射によってではなく、内側で生じる核反応によってがん細胞をたたくのが大きな特徴です。また、発生する粒子線(アルファ線、7Li粒子)は飛ぶ距離がおよそ細胞1個分と非常に短く、周囲の正常組織への影響が小さいという利点もあります。
報道によれば、2016年1月から国立がん研究センター中央病院、総合南東北病院、大阪医科大の3病院で中性子捕捉療法(BNCT)の最終的な臨床試験が始まり、早ければ5年後に先進医療として認められる可能性があるとされています。
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