シャーク土屋さんの引退セレモニーが11月24日・後楽園ホールで行われました。シャーク土屋さんは90年代から2000年代にかけて活躍した女子プロレスラーです。引退の一番の理由は身体的なコンディションによるもの。シャーク土屋さんは糖尿病を患い、下肢の壊死を防ぐためにまず右足の指を切断、さらにひざ下まで切断して現在は義足。その後、乳がんも見つかり、右乳房の全摘手術を受けていました。
乳がんと糖尿病を同時に患い。いずれも全摘や切断が必要なほど進行してしまいました。ここで気になるのは糖尿病と乳がんに因果関係はあるのか、という点です。
糖尿病があると乳がんになりやすい?
日本乳癌学会HPには次のように書かれています。
糖尿病がある人は糖尿病がない人と比較して乳がん発症リスクが高いことはほぼ確実です。
糖尿病がある人はない人に比べて1.2~1.3倍乳がんになりやすいのだそうです。その理由については解明されていませんが、高インスリン血症が関係していると考えられています。血糖値が高くなるとすい臓からインスリンが分泌されて血液中の糖の代謝が促されます。しかし、糖尿病になるとインスリンが効きにくくなり、より多くのインスリンが分泌されて血液中の濃度が高まります。この状態を高インスリン血症といい、がんの増殖に関与していると考えられています。
糖尿病で注意すべきは胃がん、肝がん、卵巣がん
糖尿病は乳がんに限らず、何らかのがんの発症リスクを高める可能性が指摘されています。予防研究グループHPの「糖尿病とその後のがん罹患との関連について」という報告を見てみましょう。
この研究はアンケート調査によって、約10万人を11年間追跡したものです。約10万人の内、糖尿病の既往があるのは男性で7%、女性で3%でした。そして、11年間の間に何らかのがんを発症した人は男性3907人、女性2555人。糖尿病の既往がある人とない人を比較すると、次のような結果になりました。
<糖尿病のある人が何らかのがんを発症するリスク>
男性……1.27倍に増加
女性……1.21倍に増加
また、男性と女性ではかかりやすいがんの種類が異なっていました。
<糖尿病の人がかかりやすいがんの種類>
男性……肝がん、腎がん、膵がん、結腸がん、胃がん
女性……胃がん、肝がん、卵巣
がん全体の中で比較すると、乳がんは必ずしも糖尿病の人がかかりやすいがんというわけではないようです。女性特有のがんの中では卵巣がんの方が発症リスクが高いという結果でした。
乳がん発症率がむしろ下がるケース……1型糖尿病
一方で、糖尿病はがんの発症リスクを高めるだけではないことも分かってきました。
英エジンバラ大学の研究(Diabetologiaオンライン版、2016年2月29日)は5カ国3900万人を対象に、1型糖尿病の人とそうでない人のがん発症リスクを比較しています。結果は次の通りです。
<1型糖尿病で発症リスクが高まるがんの種類>
男性……胃がん23%上昇、すい臓がん2倍に上昇、
女性……胃がん78%上昇、すい臓がん55%上昇
<1型糖尿病で発症リスクが低下するがんの種類>
男性……前立腺がん44%低下
女性……乳がん10%低下
この研究は糖尿病全般に関するものではなく、1型糖尿病に限定したものです。1型糖尿病に関しては、むしろ乳がんの発症リスクが低下するという点は興味深いですよね。
乳がんと糖尿病は、統計やアンケート調査によって関連性が示されてはいますが、因果関係は解明されていないようです。現時点で分かっていることは、糖尿病になると乳がん発症リスクが20%程度高まる可能性があること、ただし、1型糖尿病に限って言えば反対に10%程度低下する可能性があること。そして、女性の場合、糖尿病全体においても1型糖尿病においても胃がんの発症率が高くなることは確かなようです。