女子テニス元女王のマリア・シャラポワ選手がドーピング陽性反応が出たことを明らかにしました。問題となったのは「メルドニウム」という耳慣れない心臓の薬。2016年1月から新たに禁止表に追加された薬品で、「知らなかった」「不注意だった」という説明にも納得できるような気もします。しかし、この言葉をそのまま受け取るとすれば、トップアスリートの熾烈な争いを少々甘く見すぎかもしれません。
「まだセーフだと思った」が真相では?
町のスポーツジムに出かけると、そこにはインストラクター顔負けのマニアが1人や2人はいるものです。彼らの知識は相当なもので、筋肉をつけるにはどのサプリが良いか、回復を早めるにはどれがよいか、集中力を高めるにはどれがよいかなど熱心に語り合う光景を見かけます。ときには怪しげな色の輸入サプリを大量に摂取していたりもします。
しかし、彼らでさえ扱っているのは、薬品よりもはるかに効果の低いサプリメントなのです。サプリの効果というのは実に控えめで、その多くは、「使わないよりはましかもしれない」程度のもの。それでも、僅かな効用が認められているとなれば、メーカーはこれを大々的に宣伝し、ユーザーはすがるようにしてこれを求めるのです。
メルドニウムは心臓の薬で、持久力の向上や抗ストレスの効果が期待できるそうです。恐らくは血流に影響を与えるのでしょう。同じ作用というわけではありませんが、サプリメントの世界で血流に影響を与えるものとして重宝されているものに「NO(窒素)系」というサプリメントがあります。これは血液中の窒素量を増大させて血管を拡大し、これによって持久力の向上や、疲労回復効果、さらにはトレーニングの際に筋肉が体液を溜め込んで熱をおびる「パンプアップ」なる効果が期待されています。さらには、心筋梗塞や狭心症といった心血管系疾患の予防効果を高めるという報告もあります。こうした効果の程は薬物に比べれば極めて控えめなものでしかありませんが、愛好家は少しでも効き目を体感できれば大満足なのです。まして、血流に影響を与える薬物が簡単に手に入るとすれば、喉から手が出るほどほしいという人は大勢いるでしょう。これが、結果を求める人たちの行動パターンであり、それ自体を責めることはできないでしょう。
一方、トップアスリートの栄養管理は専門家のサポートのもとで行われています。食事、サプリメントはもちろんのこと、「使える」薬だって当然含まれていることでしょう。恐らくメルドニウムは「使える」薬だったためにこれまでも継続して使用しており、禁止表に追加された後も、「まだセーフだろう」くらいの甘い見通しで使用を続けてしまったのではないでしょうか。もちろん、これはあくまでも想像でしかありませんが…。
メルドニウムは昨年から監視対象になっていた
「知らなかった」をそのまま受け取れないのには他にも理由があります。メルドニウムが禁止されたのは確かに2016年からですが、実は2015年から監視対象になっていたからです。
世界アンチ・ドーピング機関(WADA)は、禁止表に掲載されていない薬物であっても、スポーツにおける濫用の実態を監視することを目的に監視プログラムを作っています。メルドニウムは潜在的な心臓作用を持ち、乱用が危惧される薬物として2015年に監視プログラムに追加されていました。シャラポワ選手をサポートする専門家がこの事実を知らなかったとは考えにくいでしょう。
最後にシャラポワ選手の行動が悪質だったかについてですが、個人的にはそうは思いません。スポーツの世界は究極の結果主義。結果を求め、勝利の可能性を高めることなら(ルール違反でない限り)何でもやるのが当たり前で、そうでなければ勝てません。シャラポワ選手はアスリートらしいアスリートだったに過ぎず、惜しむらくはワキの甘さ。そしてその責めは彼女自身に対して以上に、彼女をサポートすべき専門家の仕事に対して向けられるべきもののように思えます。
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