3月29日、W杯アジア2次予選シリア戦でのヘディングの攻防でヘッドバッドを受けたMF山口蛍選手が左眼窩底骨折と診断されました。頭部には目や脳といった重要な臓器が集中しており、特に眼球の近くを負傷する眼窩底骨折では失明や視力低下が心配になるのではないでしょうか。
しかし、意外にも眼窩底骨折は網膜剥離などの深刻な事態になることは稀。その上、視力低下でさえもめったのことでは起きないことが分かっています。
眼窩底骨折による視力低下はたった0.7%
眼窩底骨折の予後に関する昭和大学病院眼科の調査(2004年1月~06年12月)を見てみましょう。
それによると眼窩底骨折で治療を行った268例中、
・眼内損傷を伴ったものが46例(17.2%)。
・矯正視力が1.0 未満となったものは4例(1.5%)だが、内2例は眼窩底骨折を原因とするものではない。
・眼窩底骨折によって視力が低下したのは2例(0.7%)のみ。
という結果になったといいます。
少し意外ですが、眼に関する怪我の中では、眼窩底骨折は予後の良いものということができます。なお、眼窩底骨折が視力低下の原因となった2例はいずれも野球の硬球が当たったことによる「脈絡膜破裂」が原因。野球の硬球が眼に当たると、約9割の確率で脈絡膜破裂などの眼内損傷を伴うそうです。
視力低下につながる脈絡膜破裂
眼窩底骨折に伴って視力が低下することがあるのは、網膜が出血する網膜出血などが起きている場合です。網膜出血で出血が網膜の中心部である「黄斑」にかかると視力が低下します。こうした出血の多くは自然に治まり回復しますが、網膜の外側にある脈絡膜が傷つく「脈絡膜破裂」では低下した視力がもとに戻らないことがあります。
眼窩底は怪我を負った際に眼球にかかる圧力を逃がすために折れやすい構造になっています。いわば眼を守るために代わりに折れる仕組み。眼窩底骨折がそのようなものであるなら、予後が比較的良いのも納得できます。
硬球が眼に当たることによる脈絡膜破裂には注意が必要ですが、基本的には眼窩底骨折自体のリスクは相対的には低めであり、統計からみる限り、山口選手が今回の怪我によって視力が低下してしまう心配はあまりないようです。
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