歩道暴走で死亡事故! 「てんかん」と「高齢」、運転の危険性を高めるのはどっち?

てんかん患者(73)が運転する軽自動車が歩道を暴走したことによる死亡事故が宮崎県で起きました。容疑者は医師からてんかんの投薬治療を受けていましたが、薬を適切に飲んでいなかったといいます。

このような事故が起きると、てんかんの持病がある人が車を運転することに対して、強い不安を感じる人が現れても不思議はありません。しかし、今回の事故に関する限り、そのまま「てんかん患者の運転は危険」という図式が成り立たない理由があります。

1)容疑者が薬を飲んでいなかったこと。
2)容疑者は同時に高齢でもあったこと。

もし、今回の事故をきっかけに、てんかんの持病はあるが適切に薬を飲み、高齢でもない人が過度に危険視されるとしたら、それは偏ったものの見方になってしまうでしょう。公平に判断を行うには、てんかん患者の運転に伴うリスクがどれくらいなのかを知っておく必要があります。

てんかんリスクは年齢リスクを上回らない

警察庁は、てんかん患者の交通事故の実態に関する調査研究委員会を設置し、2014年に日本てんかん学会の専門医とその患者を対象にアンケートを実施しました。この調査結果を、国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター精神科医長の西田拓司氏が考察し、第49回日本てんかん学会学術集会で報告しています。

その主旨は次のようなものでした。
「全運転者と比べたてんかんのある人の運転中の交通事故リスク比は、全運転者における年齢によるリスク比と比べても大きくない」

少し詳しく見てみましょう。

てんかん患者の交通事故リスクとは?

前述の警察庁調査研究では、医師回答分381票、患者回答分408票の有効票を集めました。集計の結果、次のことが分かりました。

・運転免許を保有しているてんかん患者の平均運転時間…1日当たり26分
・過去10年以内に運転中にてんかん発作を起こしたことがある人…330人中28人(71回)
・運転中のてんかん発作が原因で事故が起こる確率…31.0%(人身事故が起こる確率5.6%を含む)
・運転中の発作誘因…睡眠不足38.5%、過労20.5%、薬の飲み忘れ10.3%、原因不明41%

得られた結果を、EUで採用する交通事故リスク比の計算式(COSY:The Chance of an Occurrence of a Seizure in the next Year )に当てはめ、てんかん患者のリスク比を割り出します

全運転者を「1」とした場合、てんかん患者のリスクは次のような比率で高くなることが分かりました。

・無発作期間2年…1.16
・無発作期間1年…1.23
・無発作期間6か月…1.38

無発作期間が長い人ほどリスクが低下しますが、確かに全運転者と比べるとリスクは高くなっています。問題は、ここに示されたてんかん患者のリスク比が高いのか低いのかです。

その他のリスクと比較してみる

交通事故のリスクを高める要因には、てんかんの他にも、さまざまな疾患や加齢の影響があります。そうしたリスクと対比することによって、てんかん患者のリスクをより具体的に把握できるはずです。以下にその一例を挙げてみましょう。

≪年齢の影響によるもの≫
60歳以上…1.32
65歳以上…1.53
75歳以上…2.78

このように、「60歳以上」「65歳以上」「75歳以上」のすべてのカテゴリーにおいて、無発作期間1年以上のてんかん患者のリスク比を上回っていることが分かります。無発作期間6か月のてんかん患者の関しては「60歳以上」のカテゴリーよりもリスク比は高くなりますが、それでも「65歳以上」「75歳以上」のカテゴリーよりは低くなっています。つまり、第49回日本てんかん学会学術集会で報告されたように、てんかん患者の交通事故リスク比は「年齢によるリスク比と比べても大きくない」といえるのです。

≪その他の疾患の影響によるもの≫
警察庁による調査研究とは出典が異なりますが、疾患別の交通事故リスク比についても一部を抜粋してみましょう。

・難聴…1.19
・脳血管障害…1.23
・てんかん…1.33(重大事故に関しては1.4)
・糖尿病…1.56
・精神疾患…1.72
・アルコール依存症…2.0

てんかんによる交通事故リスクは難聴や脳血管障害の場合よりも高くなりますが、精神疾患やアルコール依存症、さらには糖尿病よりも低くなっていることが分かります。

てんかんという病気が交通事故のリスクを高めるのは事実です。しかし、それがどの程度なのかについては、その他のリスクと見比べて、過大でも過少でもなく、正しく理解することが大切なように思われます。

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