りりィさんが肺がんのため11月11日の朝、亡くなられました。シンガー・ソングライターそして女優として知られるりりィさんはまだ64歳。
一方、りりィさんより15歳ほど年上の森元首相が肺がんの手術を受けて回復したことが記憶に新しいかと思います。その時話題になったのが「オプシーボ」という薬。がん治療のありかたを根本から変えるかもしれない夢の薬として脚光を浴びました。
オプシーボは2015年に肺がんに対して保険適用となっており、進行再発肺がんの1年後生存率をこれまでの39%から51%に引き上げたといいます。報道を見る限り森元首相はオプシーボの恩恵を受けることができたのでしょう。
りりィさんがオプシーボを使用したかどうかは不明ですが、仮に使用したとしてもすべての肺がんに有効なわけではありません。オプシーボが有効な肺がんのタイプと、有効でない肺がんのタイプがあることが分かっています。「肺がんならオプシーボを使えば助かったはず」とは言えないのです。
肺がんに対するオプシーボの効き目
オプジーボをはじめ、キートルーダ、ヤーボイといった薬を「免疫チェックポイント阻害剤」といいます。再発進行「小細胞」肺がんに対する免疫チェックポイント阻害剤の成績が非常に良かったため、再発進行「非小細胞」肺がんに対しても単独治療が有効ではないかと期待されていました。
ところが2016年8月5日、小野薬品工業とオプシーボを共同開発する米製薬大手ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)は臨床試験の失敗を発表。これを受けて8月8日の東京株式市場で小野薬品工業はストップ安水準となる前週末比700円(20%)安の2881円で取引を終えました。株価がこれほどの影響を受けたのは、肺がん患者の大多数を占めるタイプに対する有効性が示されなかったためです。
肺がんのタイプ 小細胞がんと非小細胞がん
肺がんのタイプには大きく分けて「小細胞がん」と「非小細胞がん」があります。
<小細胞がん>
肺がん全体の15~20%を占め、喫煙との結びつきが強い。増殖が速いタイプで悪性度が高く、リンパ節・肝臓・骨・副腎・脳等に転移しやすい。ただし、抗がん剤や放射線治療、そしてオプシーボが効きやすい。
<非小細胞がん>
「小細胞がん」以外の肺がんで全体の約80%を占める。非小細胞がんは腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどに分類される。この内もっとも多い腺がんは進行の速いものから遅いものまでさまざまなタイプがある。次に多いのが扁平上皮がんで、最も少ないのが大細胞がんとなっている。前述の米製薬大手ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)の発表によれば、がん患者の大部分を占める非小細胞がんに対するオプシーボの臨床試験は上手くいかなかったという。
「夢の新薬」としてオプシーボに期待し過ぎてはいけないようです。
なお、日本肺癌学会は2015年12月18日の段階で、「抗PD-1抗体ニボルマブ(商品名:オプジーボ)についてのお願い」を発表し、次の点に注意を促していました。
・すべての患者さんに有効な夢の薬ではない
・副作用があり重篤になることもある
・使えない患者さんもいる
この発表のなかで、腺がん、扁平上皮がんに対して、腫瘍の直径が30%以上縮小した割合が次のように示されています。
腺がん……20%
扁平上皮がん……19%
従来の抗がん剤に比べると高い割合であるとはいえ、オプシーボの恩恵を受けられるのは一部の患者さんにとどまることが分かります。
肺がんで亡くなったというニュースを聞くと、「オプシーボを使っていれば助かったのに……」とついつい考えてしまいがちですが、それはいくらなんでも薬の過大評価ということになるでしょう。