2005年に胃がんが見つかって以来、リンパ節、咽頭、肺などにがんが転移し、手術や放射線治療を繰り返してきた大橋巨泉さんが、闘病生活を諦めたと報じられています。「本人はもう打つ手がないから“終わり”といっている」「オーストラリアの家を手放したのも“終活”の一環です」といった関係者の証言も紹介されています。今後は、がんを積極的に治療するのではなく、苦痛を取り除き、QOL(生活の質)の維持を重視した「緩和ケア」が中心になると思われます。
治療初期から導入される緩和ケア
がんが進行すると、ある段階から治療を行うことによるメリットをデメリットが上回るようになります。治療には苦痛が伴う、体力が奪われる、入院期間が必要になるといったデメリットがあります。基本的には、根治を期待できる場合や転移を防ぐという目的を達成するために積極的な治療が行われます。しかし、そうした治療による効果は期待できないのに、身体的、精神的な負担ばかりが増えてしまうときには、痛みを取り除くことを目的とした緩和ケアが行われます。緩和ケアは、以前は終末期医療の意味で用いられていましたが、現在ではがんの進行具合を問わず、苦痛や不安を軽減するための治療として、がん治療の初期から取り入れられるようになっています。
入院以外にもある緩和ケアの選択肢
巨泉さんの関係者が語る「もう打つ手がない」という状況は、終末期医療への移行を意味しているのでしょう。だとすれば深刻な事態のはずですが、巨泉さんは近々ニュージーランドへ行く予定があり、「向こうは夏なので散歩できる」と喜んでいるのだとか。
終末期医療のステレオタイプなイメージといえば、治療手段の無くなった患者がベッドの上で苦痛を薬で抑えている、といったものではないでしょうか。巨泉さんはこれとは随分異なっていますね。実際、現在の緩和ケアにはいくつもの選択肢があります。
《緩和ケア病棟(ホスピス)》
専門的な医療機関に入院し、がんに伴う体のつらい症状や精神的な不安を和らげる治療を受けます。がんを治すための治療は行わず、緩和ケアに特化しているのが特徴です。
《緩和ケア外来》
入院するのではなく、定期的に病院を受診することで痛みや不安に対するサポートを受けられます。また、負担の大きくなる患者の家族もケアの対象となります。
《在宅緩和ケア》
入院や通院を行わず、訪問医療のサポートを受けながら、自宅で療養を続けます。「看取り」までを視野に入れ、慣れ親しんだ自宅または介護施設で過ごします。
巨泉さんはニュージーランドに行く予定があるくらいですから入院はしていないのでしょう。そして、生きることに非常に前向きな印象を受けます。治療の手段がなかったとしても、希望を持ち、充実した生活を続けること。こうした姿勢は、現在の「緩和ケア」が目指す方向性といえるのかもしれませんね。
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