結局のところ、お酒は体に良いのでしょうか、悪いのでしょうか。近年の大規模調査によれば、「疾患によって、良い場合と悪い場合がある」という結論になるようです。
疾患ごとに異なるお酒の影響
お酒と病気やケガ、死亡率との関係を調査した研究成果が2015年9月16日付けのLancet誌オンライン版に掲載されました(Alcohol consumption and cardiovascular disease, cancer, injury, admission to hospital, and mortality: a prospective cohort study)。
その中で、飲酒習慣があるかないかによって、各疾患のリスクがどのように変わるのかを取り上げています。一部を抜粋してみましょう。研究では、お酒の量が少量か、多量か、中程度なのかを区分していますが、複雑になるのでここでは、お酒の量を問わず飲酒習慣のある人全体の数値を取り上げます。飲酒習慣なしの数値を「1」とした場合、飲酒習慣ありでは疾患ごとに次のようなリスクの変化が見られました。
≪お酒の良い影響が見られるケース≫
心筋梗塞……0.76
心血管疾患……0.97
≪お酒の悪い影響が見られるケース≫
がん……1.51
外傷……1.29
このように、心筋梗塞のリスクは飲酒によって軽減し、反対に癌のリスクは飲酒によって増加することが分かります。なお、総死亡率に関しては、飲酒経験ありの数値は「1」でした。つまり、死亡率を全体として見たときには飲酒習慣なしも飲酒習慣ありも「同じ」ということです。
禁酒によってリスクが上がる疾患
もともとお酒を飲まない人と、以前は飲んでいたが今は禁酒している人とではリスクが異なります。残念なことに、この研究に従う限り、禁酒している人はもともとお酒を飲まない人よりもリスクが高いのはもちろんのこと、飲酒を継続している人よりもリスクが高くなっていました。少し驚かされる結果といえるのではないでしょうか。以下は、禁酒によってどのようにリスクが上昇するかの一例です。
(表記例:飲酒習慣ありの数値→禁酒後の数値)
心筋梗塞……0.76→0.89
心血管疾患……0.97→1.19
脳卒中……1.01→1.31
がん……1.51→1.93
外傷……1.29→1.63
入院……0.86→1.06
総死亡率……1.0→1.56
禁酒後はのきなみ数値が悪化していることが分かります。理由についてはっきりしたことは分かりませんが、飲酒によって得られていたメリットが無くなることと、禁酒にともなうストレスが影響していると考えられます。
なお、研究では、豊かな国と貧しい国とで飲酒の影響がどのように異なるかについても調査しています。それによると、豊かな国では外傷やがんといった飲酒が不利に働く項目で悪影響が軽減したといいます。飲酒が有利に働く項目でも良い影響が顕著に現れるといいます。これには、食事の栄養バランスや健康意識の高さなど飲酒以外の要因が関係しているのかも知れません。日本は豊かな国に分類されるので、総合的に見るならば、飲酒による不利益よりも利益を享受しやすい環境であるといえます。しかし、もちろん飲酒を奨励しようというわけではありません。飲酒には良い影響も悪い影響もあることを知り、適量を楽しむようにしたいですね。
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