AKB48の姉妹グループであるSNH48のメンバー・唐安琪(タン・アンチー)さんは3月1日、全身の80%に及ぶ大やけどを負いました。そして、生死が危ぶまれる中、3月4日に皮膚移植を伴う手術を行い成功したと報じられています。唐さんの手術代は総額で1000万円を超えるといわれており、SNHは特別公演を行ってその収益を手術代に当てると発表しました。
特別公演は将来を期待された若者を救う尊い行為のようにも思えます。しかし、一方でいくつかの疑問も浮かんできます。
・手術が救命のためだとすれば、保険制度が日本とは違うとはいえ、1000万円は高すぎではないか。
・4日に行われたという皮膚移植は救命と美容のどちらが目的のものだったと考えられるか。
・1000万円以上の手術代は生命と関わるものなのか、また、すぐに必要になるのか。
などです。少し考えてみたいと思います。
4日の手術は救命目的
広範囲にやけどを負ってしまうと、細菌をブロックする皮膚の機能が失われ、血敗症による死亡リスクが高くなります。皮膚移植にはこうした危険を回避する救命の役割があります。重症のやけどは受傷から数日から数週間のうちにショック死に至るケースもあり、治療初期の目的はあくまでも救命で、美容ではありません。
受傷から3日目に行われた唐さんの皮膚移植が美容目的のものとは考えにくく、手術は救命のためのものだったと推測されます。ただし、80%のやけどというのが、広範囲ではあっても浅いやけどであるとすれば、この段階から美容目的の治療を進めることも考えられますが、当初から「重症」と報道されていることから、その可能性は低いといえるでしょう。
1000万の手術代は美容目的を含むもの?
初期治療の目的はあくまでも救命、そして生命の危険がなくなってから美容のための後期治療に移るというのが基本的な流れです。この点に関して、NPO法人創傷治癒センターのサイトから関連する記述を引用してみましょう。
<救命目的の初期治療について>
「熱傷が広範囲の場合に、必ずしも1~2ヵ月で全部植皮が可能とは限りませんが、全身状態が許す限り、一応1ヵ月ぐらいから植皮を始めてゆくのが現在の考え方です」
<美容目的の後期治療について>
「生じた問題を1つずつ再建してゆくのが後期の治療の目的です。十分に時間をかけて修正手術の必要性を検討することがかんじんです。初期の治療と違って、ほうっておくと手おくれになる、といった問題ではないからです」
4日に行われた唐さんの皮膚移植は現在の考え方からすれば、かなり早期の開始だったことが分かります。それだけ切迫した状況だったのではないでしょうか。一方、症状が安定した後の美容的治療については、求める水準に応じていくらでも時間も費用も投じることができます。おそらく手術代1000万円は美容目的の後期治療を含んでいるのではないでしょうか。
「特別公演」に感じるモヤモヤの原因は?
唐さんの皮膚移植の手術代1000万円以上という報道に、何かモヤモヤとしたものを感じずにはいられませんでしたが、それは次の3つの疑念から来ていました。
1)中国で救命のための手術代が1000万円以上するのだとすれば、庶民が大きなやけどを負った場合は十分な処置をしてもらえずに死んでしまうでしょう。実際にそうだとすれば、ひどい社会ということになります(中国の医療経済については分からないので真偽のほどは不明)。
2)唐さんが受けた4日の皮膚移植が高額な美容目的のものだとすれば金額のつじつまは合いますが、タイミングがおかしいことになります。生命が危ぶまれる状況下で美容目的の手術は行わないからです。もしこれを行っていたとすれば、唐さんのやけどは広範ではあるが深くないことになります(しかし、生命が危ぶまれるという当初からの報道に反するため、この可能性はほとんどないでしょう)。
3)唐さんは救命のための手術を4日に受けていましたが、1000万円以上という治療費はこの手術ではなく、後々継続していくことになる美容目的の手術代を指していると考えるのが最も整合性があるように思えます。しかし、美容目的の手術はすぐに行う必要はなく、時間をかけて行うものなので、治療費を準備する時間的な余裕はあったはず。生命が危ぶまれる状況下で救命のための手術が行われたタイミングに合わせて、「1000万円以上必要なので特別公演を」と告知されると、命を救うためにすぐに大金が必要になると受け取る人もいることでしょう。
大やけどからの回復においては、見た目の問題も非常に重要です。美容目的の手術だから軽視して良いということは全くなく、容姿が求められるアイドルであればなおさらのこと、極めて重要な治療になります。しかし、とはいえ生命を救えるかどうかという大問題はこれとは一線を画すもののはずです。両者の区別が不明瞭なままでの「1000万円以上必要だから特別公演」という告知は、唐さんを応援するファンの気持ちに対して誠実なものだったかどうか疑わしい気もしますが、いかがでしょうか。
SNH48唐安琪さん火傷重症 数日後のショック死、敗血症の危険