乳がん治療の第一選択は外科手術によって腫瘍を切除することです。放射線治療は術前または術後に全身へのがんの転移を防ぐ目的で行われます。一方、陽子線を用い、切除を前提としない治療方法も研究が進められています。メディポリス国際陽子線治療センターは従来陽子線での治療が困難だった乳がんに対しても研究を進め、臨床試験を行ってきました。
入院の負担軽減と温存に適した治療
陽子線治療とは次のようなものです。
期間:1日1回2分程度の治療を週5回行い、これを3~4週間継続する
費用:全額自己負担で288万3000円 ※がん保険の先進特約なら全額カバー
このように非常に高額ではありますが、手術の場合のように入院しなくても済み、また切除にともなう機能や見た目の低下を防ぐことができます。
ブラッグピークという特性
そもそも、なぜ放射線治療が乳がんの第一選択になっていないのかというと、腫瘍を攻撃する力が弱いからです。もし従来の放射線治療で腫瘍を殺せるだけの線量を照射すると、周辺の組織のダメージが大きすぎてメリットをデメリットが上回ることになります。特に乳房には心臓や肺といった重要な臓器が隣接しており、その影響は深刻です。
これに対し陽子線には、常に一定の力が放出されるのではなく、特定の深さで高い力を放出するという特性があります。この特性を上手く利用すると、周辺組織へのダメージを抑えながら腫瘍を集中的に攻撃することができます。コンピューターによってブラッグピークの深さや形はコントロール可能で、腫瘍に大きな力を集中できるので、治療の第一選択となり得るのです。しかし、課題もありました。
固定の方法を確立することで乳がんにも応用
陽子線治療においてはブラッグピークの特性を生かし、腫瘍を強力に攻撃しつつ、周辺組織へのダメージを抑えます。少しズレただけで受けるダメージは全く異なり、腫瘍の形状や深さを正確に計算しているからこうしたことが可能になります。別の見方をすると、照射の対象となる体が動いてしまったら大変ということです。
これまで乳がんに対して陽子線治療が行われてこなかったのは、乳がんの腫瘍が移動しやすいためです。
メディポリス国際陽子線治療センターは次のような対策をとりました。
・患者を下向きにして乳房を下垂させた上で、3Dプリンターで乳房カップを作る
・照射の際はこの乳房カップで乳房を固定し、腫瘍の位置のズレを防ぐ
・照射時に仰向けとうつ伏せの体位を自在に反転できる装置を開発
これにより乳房の近くにある心臓や肺を守りながら腫瘍を集中的に攻撃できるようになりました。同センターでは2015年6月から臨床試験を行っており、採用されれば初期乳がん治療の選択肢が増えることになります。
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