10月に亡くなった声優の松来未祐さんの死因が「慢性活動性EBウイルス感染症」による「悪性リンパ腫」だったことが分かりました。悪性リンパ腫は慢性活動性EBウイルス感染症が引き起こす病気のひとつです。問題なのは、慢性活動性EBウイルス感染症という非常に稀な病気、さらにはその原因となる「EBウイルス」だといえます。EBウイルスというのはあまり聞いたことがない名前ですよね。どのようなウイルスなのでしょうか。
「キス病」とも呼ばれ、危険の少ない「伝染性単核症」
EBウイルスとはエプスタイン・バーウイルス(Epstein-Barr virus)の略で、発見者の名前に由来する名称だそうです。ヘルペスウイルスの仲間で、感染後に高熱などの症状が出ますがやがて治まり、その後は潜伏・休眠状態で体内に残ります。再び活性化するとEBウイルスが唾液中に出てきますが自覚症状はありません。
EBウイルスが引き起こす感染症を伝染性単核症といいます。伝染性単核症は38度以上の発熱、倦怠感、のどの痛み、湿疹、肝臓・脾臓の肥大といった症状を伴い、4~6週間で自然によくなります。アメリカではキスや口移しで感染するケースが多いため、「キス病」と呼ばれているそうです。
EBウイルス自体はありふれたウイルスで、日本では2~3歳までに約70%が感染し、成人の90%以上が抗体を持っています。また、EBウイルスが引き起こす伝染性単核症も基本的には怖い病気ではありません。しかし、6か月以上症状が続くようなら重症化している可能性があります。
危険な病気「慢性活動性EBウイルス感染症」
症状は伝染性単核症と似ていますが、はるかに危険な病気が慢性活動性EBウイルス感染症です。この病気になると数年後に約半数が死亡、十数年後にはほぼ全員が死亡します。EBウイルスが免疫細胞であるT/NK細胞に感染すると、体内の免疫系に異常な反応が生じます。この点が、B細胞を感染の対象とする伝染性単核症とは異なっています。
慢性活動性EBウイルス感染症はきっかけこそ感染症ですが、その振る舞いは感染症を超えているともいわれます。抗ウイルス薬は効かず、抗癌剤治療や造血幹細胞移植によって治療を行います。病気のメカニズムはまだ分かっていません。EBウイルスはありふれたウイルスなのに、なぜ、発病する人としない人がいるのかも謎です。日本人であれば、ほとんどの人がすでにEBウイルスに感染し、抗体を持っているため、ことさらに感染を恐れたり、感染した人を隔離したりすることにはほとんど意味がありません。現在、可能な対応は疑わしい症状が現れたときに医療機関を受診することくらいです。松来さんを苦しめた難病の解明が求められています。
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