アーティストの和田光司さんが「上咽頭がん」のため亡くなられました。和田さんはテレビアニメ「デジモンアドベンチャー」のオープニング曲「Butter-Fly」などで知られています。
和田さんは「不死蝶のアニソンシンガー」と呼ばれていました。度重なるがんを乗り越えてきたからです。最初の手術を行ったのは2003年、上咽頭がんでした。それから8年経った2011年には縦隔という場所に転移が見つかっています。
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03年、最初に上咽頭がんが見つかったときの5年生存率は40%だったといいます。和田さんは医師から告げられた余命よりもずっと長い期間をがんと闘い、復活も遂げました。その背景には、本人のがんばり、そして、手術、放射線治療、抗がん剤治療といった医療の効果があったものと思われます。がん発見後の奮闘が見事だっただけに、惜しまれるのは発見の遅さ。こればかりはどうにもならないことですが、「もし、早期発見できていれば……」と思わずにはいられません。和田さんの場合、後から考えると、がんの兆候ははっきりと出ていたことがわかります。
最初は中耳炎だと思っていた
和田さんは当初「中耳炎」と診断されていました。しかし症状が治まらず、首にできた2つのしこりが気になって医師に相談したところ、念のために検査をしておこうということになりました。その結果が上咽頭がん。そして、5年生存率40%の宣告です。
上咽頭がんはEBウイルスの関与で発症すると言われており、中国や台湾などの東アジアに多いがんです。日本人にはめずらしく、通常は真っ先に疑うべき病気ではないのかもしれません。
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上咽頭がんで注意すべきは、和田さんのケースがそうであったように中耳炎と類似した症状です。上咽頭がんの症状の中には耳鳴りや難聴といった耳の病気を疑いたくなるものが含まれています。上咽頭がんの腫瘍が大きくなると、耳、鼻の順に圧迫し、違和感を感じます。鼻の症状が出るのはかなり進行してからだといわれています。
「咽頭」というと喉(のど)の部分を想像してしまいますが、解剖図で上咽頭を見ると、むしろ耳や鼻の高さに近いことが分かります。
首の触診、超音波検査が重要に
上咽頭がんの症状は耳や鼻に出ることが多いので、こうした症状から咽のがんを発見するのは困難です。一方、上咽頭がんには発見しやすいもう一つの兆候があります。それが、首のしこり。
上咽頭がんのほとんどが頸部リンパ節に転移します。頸部リンパ節が大きくなると首にグリグリとした異物感が感じられるようになります。頸部リンパ節は体の表面近くにあるので、熟練した医師は首の触診によって頸部リンパ節転移を発見します。また、超音波検査を受ければかなり小さな段階で発見することも可能です。
和田さんに見られた中耳炎と類似した症状や首のしこりは、上咽頭がんに典型的に見られる症状でした。中耳炎だと思ったいたところに、いきなり「上咽頭がん、5年生存率40%」を突き付けられたらそのショックは計り知れません。耳に違和感を感じると、「どうせ中耳炎か何かだろう」と考えがち。しかし、背景に怖い病気が隠れていることもあります。特に首にしこりがあるかどうかに注意を払ってみることが大切ですね。
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