兵庫県で、劇物のメタノールを混ぜた酒で夫が殺害される事件が起きました。夫は3月6日に気分が悪くなって意識不明となり、病院で血液と尿を検査したところメタノールが検出されました。その後、夫は10日に死亡しています。
同じアルコールでもエタノールは飲めるお酒ですが、メタノールは工業用で飲むことはできません。しかし、戦後まもないころには、メタノールが「ばくだん」というお酒として闇市で売られ、これを飲んで失明した人も少なくなかったといいます。危険はともなうものの、飲もうと考える人がいたのには理由がありました。「ばくだん」は飲めるように一応は処理されていたのです。メタノール入りの酒を飲む方法があったということでしょうか。
工業用はエタノールをわざわざ飲めなくして作られた
石油の乏しい日本では、主にサツマイモを原料とするエタノールが大量に製造されていました。これはあくまでも工業用ですが、エタノールなので水で薄めれば飲むことができます。そのままではお酒に分類され、酒税がかかってしまします。
これを避けるため、もともと飲むことができるエタノールに、わざわざ劇物のメタノールを混ぜ、お酒に分類されないようにしたのです。こうして作られた工業用アルコールは、飲めるお酒と区別するためピンク色に着色し、絶対に飲まないように警告していたといいます。
メタノールを無理やり飲めるようにした「ばくだん」
戦後の貧しい時代、お酒は高級品でした。どうしてもお酒を飲みたい人が手を出していたのが前述の工業用アルコールです。しかし、そのまま飲んだのでは失明は必至。そこで、エタノールにメタノールを混ぜて作った工業用アルコールから、もう一度メタノールを取り除いて作るお酒が登場します。これが、通称「ばくだん」です。メタノールの沸点が64.6℃なのに対してエタノールの沸点は78.3℃。有害なメタノールの方が先に気化します。理論上、温めればメタノールだけを取り除けるはずです(絶対に真似しないでください!)。
実際、こうした方法で工業用アルコールからメタノールを取り除くことで「ばくだん」は作られました。しかし、メタノールの除去がいいかげんだと、メタノール入りの酒を飲むのと同じことになります。「ばくだん」を飲むのは綱渡りでした。
飲むと失明したり、死亡したりする工業用アルコールから人に飲ませる酒を作るという発想、そして、これを実際に口に入れる人がいた戦後間もなくは、本当に大胆な時代だったのだと思います。
さて、夫にメタノール入りの酒を飲ませた今回の事件。飲めるお酒にわざわざ飲めないメタノールを混入する手口は、酒税を避けて工業用アルコールを流通させるときの工程と似ていますね。ただし、後者はピンクに着色して飲めないことを警告してくれたわけですが……。
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