手術の目的はQOL(生活の質)だけだったのか?
小林麻央さんは現在ステージ4ですが、根治を目指すことを宣言。「奇跡を起こす!」と語っています。この奇跡発言は、明らかにその少し前の手術成功の報告とつながっています。
手術は奇跡のスタート地点の位置づけなのかも知れません。しかし、「奇跡」という言葉を使っているからといって誤解してはならないのが、小林麻央さんの受けた手術が神頼み的なものでは決してないということ。
また、根治ではなくQOL(生活の質)のための手術とも言われていますが、QOL(生活の質)のためだけとはいいきれないのです。
確かに乳がんのステージ4は通常手術の対象ではありません。その背景には、手術をしても予後が向上しないという認識があります。ステージ4で手術をしないのは現在の常識。しかし、常識は変わります。実際、ステージ4でも手術をした方が良いという報告もあるのです。
ステージ4でも切除するかしないかで結果が変わる?
九州がんセンター乳腺科の大野真司氏は第112回日本外科学会定期学術集会(2012年)で、ステージ4の乳がんにおいて、切除をした場合の方がしなかった場合に比べて予後が良い可能性があることを示しています。ここでの切除の対象は原発巣に限られ、転移巣についてはあてはまりません。
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原発巣というのは最初にがんができた場所のこと。小林麻央さんの場合は乳がんが当てはまります。転移巣というのは、原発巣から転移してできたがんのこと。小林麻央さんの場合は肺や骨のがんが当てはまります。
大野氏によると、原発巣を切除したかしなかったかによって次のような違いが出たといいます。
<3年生存率(1990年~2011年)>
切除した群……66.1%
切除しなかった群……51.2%
このように決して小さくない差が出ていることが分かります。ただし、切除した群では、がんが切除できる程度まで縮小していた、つまり、もともと有利な条件であったとも考えられるため単純比較はできないとのこと。
原発巣か転移巣かで推奨グレードが異なる
がん治療では、その治療を採用すべきかどうかの判断基準として「推奨グレード」というものを用います。グレードAは利益が不利益を上回る可能性が高い治療。反対にグレードDは不利益が利益を上回る可能性が高い治療です。
<がん治療の推奨グレード>
グレードA……十分な科学的根拠があり、強く勧める
グレードB……科学的根拠があり、(Aほどではないが)勧める
グレードC1……十分な科学的根拠がないが、考慮してもよい
グレードC2……科学的根拠がないので勧めない
グレードD……不利益の可能性があり、行わないことを勧める
なお、ステージ4の乳がんにおいては、
原発巣切除……グレードC1
転移巣切除……グレードC2
となっています。
なお、小林麻央さんが局所コントロールといわれる手術で切除したのは乳がんとリンパ節転移だと思われます。つまり、原発巣切除なので推奨グレードはC1となります。科学的な根拠が全くないのではなく、十分な科学的根拠はないということなのです。全くないことと十分にないこと、この2つの違いは小さくはありません。
「奇跡」発言をしている小林麻央さんですが、受けている治療は決して恣意的なものではないことがわかります。原発巣切除にはたとえステージ4であっても生存率を向上させる可能性があります。
「原発巣を切除できる状態にするために、薬物療法と組み合わせて治療を考えていくことが重要」と大野氏は述べています。これはまさに、小林麻央さんが長い入院期間を通じて求め続け、先日遂に実現したことに他なりません。
現在の常識に照らせば、ステージ4における手術は治療を目的とするものではなくQOL(生活の質)のためだというほかありません。しかし、あの手術にはそれ以上の期待が込められているのではないでしょうか。小林麻央さんの主治医は「着実な一歩一歩」が大切だと考える人だそうです。手術の成功がその一歩に数えられるものであることは間違いないでしょう。