麻央 放射線「決断の遅れ」から分かる余命

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小林麻央さんは1月6日のブログで放射線治療の予定があることを明かしました。これが実現すれば小林麻央さんが放射線治療を受けるのは2回目ということになります。

1回目と2回目の放射線治療は意味合いが異なります。

まず、1回目の放射線治療について語られたのは昨年の12月7日のことでした。このとき麻央さんは既に25日間の放射線治療を終えていたそうです。放射線をかけた部位は胸、脇、鎖骨、首の半分あたりまでとされています。この段階での放射線治療の目的については語られていませんが、放射線治療開始時にさかのぼって考えると、その時点での麻央さんの病状は安定しており痛みを訴えていないことから、痛みの緩和のための放射線治療だったとは考えにくいでしょう。

麻央さんは肺に転移があるので、胸に照射をしたということは肺に転移した病巣がターゲットだったのかもしれません。また、脇、鎖骨、首にはリンパ節があることから、病巣を広げないための治療、またはちょうどQOLの手術がそうであったように、(通常ステージ4では行われない)根治を目指す治療だった可能性もあります。

麻央さんが強い痛みを訴え始めたのは、この1回目の放射線治療が終わった頃からでした。そして、現在、麻央さんは2回目の放射線治療を心待ちにしています。なぜなら、その治療によって痛みの緩和が期待できるからです。1回目の放射線治療とは異なり、2回目の放射線治療には痛みの緩和という明確な目的があります。気になるのは、麻央さん自身の「決断が遅かったため、まだ始められない」というコメントです。判断が遅れたということは何か迷う要因があったということではないでしょうか。

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放射線治療で痛みが軽減するまでにはタイムラグがある

麻央さんを悩ませる痛みの原因は骨転移です。乳腺にできた最初の癌(原発巣)から微細ながん細胞が血中に流れ出て、生き残った細胞が骨に付着し、そこに新しく血管を作って栄養を得て成長していきます。

骨にできた腫瘍はそれ自体が痛みの原因となることはありませんが、周囲の骨の成長に影響し、多くは破壊に導きます。また、骨周辺の組織や神経を巻き込むこともあります。骨転移が‎強い痛みをもたらすのは、骨が脆くなった結果か、または腫瘍が神経を直接刺激することによるものだと考えられます。放射線治療は骨転移のある箇所に放射線を当てて腫瘍の縮小を試み、痛みの原因となる腫瘍による骨や神経への影響を軽減します。
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「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」(2010年版)によると、痛みの緩和のための放射線治療の効果は高く、癌の種類によって異なるものの60~90%の有効率であるとしています。そして、放射線を照射してから、2週程度後になってから緩和の効果が現れ、4~8週で最大になるそうです。重要なのは、痛みの効果が表れるまでの2週~1カ月後までの生存を期待できない場合は、緩和のための放射線治療の適応にならないという点です。

つまり、医師から麻央さんに緩和のための放射線治療という選択肢が提示され、あとは本人の決断次第という状況だっとするなら、少なくとも2週~1カ月後までの生存は前提となっていることが分かります。

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脊髄に2回放射線を照射すると重篤な副作用「放射線脊髄症」のリスクがある

次に、なぜ決断が遅くなったのかを考えてみましょう。

通常、放射線治療は1部位に対して1回が原則です。特に重要臓器である脊髄に2回放射線をかけると「放射線脊髄症」という重い副作用の危険が高まります。交通事故などで脊髄が損傷すると手足が麻痺する後遺症が生じることがありますが、放射線によって脊髄がダメージを受けた場合にも麻痺が生じます。これが放射線脊髄症で、発症した場合、1年以内に亡くなるケースが多いといいます。

もし、痛みの緩和の有効率が非常に高い治療であっても、放射線脊髄症のような重い副作用の可能性があるとしたら、すぐに決断することは困難ではないでしょうか。麻央さんが痛みを訴えている部位はおそらくは背骨、つまりは治療時に脊髄に放射線が当たってしまう部位であり、さらに2回目の放射線治療ですから放射線脊髄症のリスクも高くなる……このような難しい選択を迫られていたとしても不思議はありません。

さて、先ほどは、放射線の照射から緩和の効果が出るまでに2週~1カ月のタイムラグがあることにふれましたが、放射線脊髄症を発症するまでにはさらに長いタイムラグがあります。放射線脊髄症の多くは放射線治療が終了してから12~15カ月後とされています。

これを踏まえ、「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」(2010年版)は次のように記しています。

放射線脊髄症などの放射線障害発生までの生存が見込めなければ同一部位再照射はより積極的な選択となりうるが、その場合でも障害発生リスクについての説明は必要である。

つまり、どういうことかというと、通常2回目の照射は放射線脊髄症の可能性があるため慎重にならざるをえないが、その患者が放射線脊髄症を発症するほど長期の生存が期待できない場合は、当然、放射線脊髄症のデメリットをそこまで考慮する必要はなく(なぜならその頃には亡くなってしまっている可能性が高いから)、痛みの緩和というメリットを積極的に求めることができる、ただしその場合でもしっかり説明はしましょう、といっているのです。

おそらく副作用の説明を受けて麻央さんは迷ったのです。仮に麻央さんに余命が宣告されているとして、それが放射線脊髄症を発症するほど長くないのだとすれば、迷う理由はなかったはずです。迷うということは、放射線脊髄症を発症してしまうかもしれない12~15カ月後の生存可能性が高いからだとはいえないでしょうか。

憶測の域を出るものではありませんが、ここでは麻央さんが予定している緩和のための放射線治療を手掛かりに、
・治療の適応になったということは、少なくとも2週~1カ月以上の余命が前提とされている
・判断に迷ったということは、12~15カ月以上の生存可能性も十分にある
と推論してみました。

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