マラソンランナーが突然倒れて死亡してしまったとき、体の中では何が起きているのでしょうか。心臓の発作なども考えられますが、筋肉が溶ける「横紋筋融解症」の可能性があります。横紋筋融解症はトップアスリートのハードトレーニングだけでなく、普段運動習慣のない人が急に山登りなどを行ったときにも生じる危険があります。
ほとんどの筋肉は「横紋筋」
筋肉には大きく分けて2つのタイプがあります。手足の筋肉である「横紋筋」と、血管壁や内臓の筋肉である「平滑筋」です。普通、筋肉といって思い浮かべるのはほとんど「横紋筋」であると考えていいでしょう。横紋筋融解症は、この体のいたるところにある横紋筋が血液中に溶け出てしまう病気で、重症になると意識障害を招いたり、最悪の場合は死亡することもあります。溶け出てしまうのはミオグロビンという色素タンパク質です。ミオグロビンは筋肉中で酸素を貯蔵する役割を果たしていますが、ハードな運動や慣れない運動によって筋肉が壊れると、ミオグロビンが血中に溶け出てしまうのです。
ミオグロビンが腎臓を通して尿中に排泄されると、尿は赤くなります。これを「ミオグロビン尿」といいます。ミオグロビン尿が続くと、腎臓が目詰まりを起こし、腎不全を引き起こします。ミオグロビン尿はいわゆる血尿と似て非なるものですが、両者を区別するのは医療機関でなければ難しいでしょう。横紋筋融解症にかかると血中のミオグロビンの値と、筋肉痛などでも上昇するクレアチンキナーゼの値が異常値となります。横紋筋融解症かどうかは血液検査によって調べることができます。
「バリスティック」な刺激が危険!?
筋肉をゆっくりと収縮させるのではなく、大きな物理的衝撃によって急激に収縮させることを「バリスティックな刺激」といういいかたをします。筋トレでは、筋肉を発達させるひとつの重要な要素と考えられています。なかでも筋肉への負担が最も大きくなるのは伸張性収縮のとき、いわゆる「ネガティブ」と呼ばれる動作においてです。
ジャンプで跳び上がるときには、臀部、太もも、ふくらはぎの筋肉が強く収縮して力を発揮しています。この動作はポジティブです。反対に、ジャンプの後の着地の局面では、これらの筋肉は衝撃を吸収するために、外からの力で引き伸ばされながら収縮しています。これがネガティブと呼ばれる伸張性収縮であり、横紋筋融解症の危険性が高いと考えられる動きなのです。バーベルを担いでジャンプするスクワットジャンプを行っていたラグビー選手が突然倒れ、2日間の集中治療が必要になったケースがあるそうです。スクワットジャンプで伸張性収縮を繰り返したことで筋細胞中のミオグロビンが血中に溶け出し、横紋筋融解症が引き起こしたのが原因でした。横紋筋融解症のリスクを軽減するには、運動強度に少しずつ慣らしていくことが大切です。これは運動習慣のある人にも無い人にも当てはまりません。自分にとっての「ハード」な運動を突然行ってはならないのです。
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