病気そのものの治癒に成功し、痛みが消えれば一番良いのですが、それが難しいケースもあります。末期がんなどでは、病気の治癒が難しいとき、まずは苦痛の除去を優先して行います。
病気そのものの治療とは独立して、痛みそのものを治療対象とするのが「ペインクリニック」です。麻酔薬を注射する神経ブロック療法や薬物療法、物理療法を用い、腰痛や顔面痛から癌性疼痛まで幅広い「痛み」の解消を目指します。
「安楽死」には、痛みからの解放という面があります。日本では認められていません。ただし、患者の死につながる積極的なアプローチは禁止されていますが、患者の苦痛を避けるために、延命治療をあえて行わないという消極的なアプローチは可能です。
死亡リスクをあえて軽減しないケース
病気や加齢によって食べものを飲み込む「嚥下(えんげ)機能」が低下すると、誤嚥性(ごえんせい)肺炎のリスクが高まります。誤嚥性肺炎は細菌を含んだ唾液が誤って肺に入ることで引き起こされる肺炎で、高齢者の死亡原因になるものです。
「胃瘻(いろう)」は、食べ物をうまく飲み込めない患者に対して、チューブを通して流動食を胃に直接入れます。これによって栄養状態を改善するとともに、誤嚥性肺炎を防ぎ、死亡リスクを軽減することができます。しかし、とりわけ終末期においては脱水症状によって患者が苦痛を感じることが多く、栄養状態が改善する胃瘻のメリットをデメリットが上回るという見方もあります。
また、医療現場の事情として、胃瘻を作るのは簡単で、その後のケアが容易になることから、効率重視の発想でこの治療が安易に選択される懸念もあり、胃瘻を行うべきか行うべきでないかは、しばしば議論の対象となっています。胃瘻のケースからいえることは、患者に与える苦痛を考慮し、生存率を高める治療をあえて行わない選択は、医療現場において決して珍しいことではない、ということです。
消極的安楽死とは?
一般的に「安楽死」として理解されているのは、正確には「積極的安楽死」というものです。これとは別に、「消極的安楽死」というものがあります。違いを整理すると次のようになります。
≪積極的安楽死≫
患者の命を終わらせることを目的とし、薬物投与など積極的に何かを「する」ことを積極的安楽死といいます。
≪消極的安楽死≫
患者の命を終わらせることを許容し、延命につながる何かを積極的には「しない」ことを消極的安楽死といいます。
このほか、積極的に延命治療を行わないという点で消極的安楽死と共通点がありますが、「患者の意思によって」延命治療を行わないことを≪尊厳死≫といいます。
自分や自分の家族が回復の見込みのない病気に罹ってしまう可能性は誰にでもあります。そうしたとき、何よりも苦痛からの解放を願うといった状況が生じるかもしれません。日本においては安楽死は禁じられていますが、それは積極的安楽死に関してであり、消極的安楽死または尊厳死については実際に医療現場において選択されています。
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